残懐旧話





















外の世界を知らぬ場所。
それが自分の故郷であった。
人里離れた深くの地。
その話をする母の目は、何時だって歪んだ色をする。

「あすこで何が、起こったの?」

思い切って訪ねると、寂しそうに微笑んで、その時の事を語り出す。

全てが歪み、崩れゆく、始まりのその一端を。



 
 獣すら忌避するその場所に、男は生まれ、育っていった。
小さな部落の長として、確かに其処に立っていた。
外界の不浄も露知らず、一族の責務を果たさんと。
全てを捨てて、歩み続けた。

「-、そろそろお前にも妻をやろう」
「ですが、父上」
「何、身体こそ弱いが美しい。きっとお前も喜ぶだろう」
「…はい」


-後は、以前聞いた通りの展開だった。




 目の前にある荒野を見つめ、ほう、と小さく息を吐く。
落ちぶれた貴族と、その妻と。
一体、誰が、何の為にこの様な事象を招いたのか。

「きっと、皆が招き寄せたんだ」

でなければ、誰も救われない。
産み落とされた御子は何として生きているのだろう。
ほんの僅か、興味が湧いた。
…けれども。


-何時か。自分が誰かの妻となった時。
…彼の人の様に、果たして砂鉄を飲めるのか?

そう思うと、堪らなくいたたまれなくなった。
出来るはずもないのだ。「強さ」を知らぬ、この身など。
苦く息を噛み締めて、しかと荒野を睨め付ける。

滲んだ視界の片隅で、ざわりと稲穂がざわめいた。