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色の世界の片隅で












花が散らばっている。
否、正確には咲き乱れている、だ。

視界の全てを覆い尽くす色達。
目の覚めるような赤や黄色。
それを支えている緑。
目に痛い程の色彩の渦。
それらが放つむせ返るような匂いに、うっとりと目を細める。

「きれい、」
「そうでしょう」

隣で兄が頷いた。
まるで自分が作ったのだという様に。
…実際には、この光景は元からある物であり、それを私が見つけただけである。
そこの彼の手柄は一切無い。
だというのにその言動はなんなのだろうか。

「一輪、手折っていきますか?」

にこにこ、と笑顔を向ける。
常に笑みを絶やさぬ兄だが、今日は殊更楽しげに見えた。
連れて来て良かったなぁ、と素直に思えるソレだった。

「…いい。このままにしておきたい」

ふるふると首を振ると、ますます嬉しそうに口角を持ち上げた。
一体彼の口角は何処まで持ち上がるのだろうか。
というかどんな表情筋をしているのだろうか。
そして何故兄なのに敬語なのか。
わき上がる疑問を笑うかの様にそより、風が花弁を揺らす。
一層強くなる芳香。
空は何処までも青い。

「また、来れたら良いですね」

ぽつり落ちた、その言葉。
音として広がり耳の中で破裂する。
また、来たい。
それが私も思った事だ。
だけど。
それを口にしたところで、一体どうなるというのだろう。
…どうにもならない。

ふわり、風が髪を撫でていく。
髪に、体に、纏わりつく香り。
空は、何処までも広い?

「気が向いたらね」
「はい」

少しだけ眉を潜める。
返答も、その裏も。
全て見透かされた様で苛つく。
じりじりと燻る思いから目を逸らし、ゆっくりと瞳を閉じた。

途端、色彩の世界が遠のく。


暗転。



嗅覚を通して、世界が。