驚き故か、それ以外か。押し殺したような、何かを耐えるような。
絞った声を、男は放つ。
眉をつり上げ肩を震わすその様は、何かを拒否しているかのようだ。

「解いてなどいないさ。元々、私にはこれしかない。
君が結ったこの紐しか」

そういって再度左手で右手の紐にそっと触れる。
違うところといえば、触れる手つきと、すまなそうな、
それでいて煩わしそうな色を宿した眼くらいだ。

「俺が?この紐を、お前に?」

は、と男は鼻で笑う。彼のことを心の底から馬鹿にしているらしい。

「そんな事をして何になる。一体何があるという?」

答えられるものなら答えてみろ。

挑発的に男は言った。

「…先ほど、私は言ったろう。
生きているからこそのしがらみで、規則あっての生なのだ、と」

「ああ、確かに言っていた」

だからなんだ、と聞きかけて、男ははっと瞠目した。
そうして、同時に理解した。

徐々に血の気の失せる男を見、彼は困った風に口角を持ち上げた。

「そう、そういう事なのだよ。括られる事が生ならば。私は生きてはいないのだ。
君が括ったこの紐で、かろうじてここにいるだけなんだ」

でも、もういいだろう。

彼が結び目に手をかける。

とっさに止めようと手を伸ばしたが、あっけなく紐は解けてしまう。

片側のみ自由となった紐が風邪にたなびく。